立春を過ぎて昼間が、長くなったのを実感できるようになってきました。
陽の光も明るくなり、光の春という言葉をあらわすかのような早春の日ざしは落葉の林に光を届け、梅の花も開きはじめています。
梅林をわたる風は馥郁(ふくいく)とした梅の香りを届けてくれています。
梅が香に のっと日の出る 山路かな 芭蕉
芭蕉晩年の名句ですが、ここでも梅の香は大切な役割を果たしています。日の出とともにひらく梅の花の香りがどこからともなく伝わってくる山路をゆく芭蕉の前方に梅の香にさそわれたかのように顔を出した日の出の状景をとらえたものです。
芭蕉が追い求めた 平易な言葉でさりげない事象を描写する「軽み」をあらわした句としてもよく知られています。
遣唐使によって青梅を燻製にして乾燥した、まっ黒の生薬「烏梅」(うばい)とともに中国から持ち帰られたのが日本に伝えられた はじめての梅でした。
梅はその花の美しさでたちまち貴族社会にひろがり、梅を観賞する文化が生まれてきたのです。
万葉集には桜を詠んだ歌は43首なのに対して梅は110首も詠まれ、この時代 花といえば梅とされるほどの人気だったのです。
まだ冷たい早春の空気の中に一つ 又 一つとひらく梅の花は、みんなが待ちこがれている春の訪れをそっとさぐるかのように、いかにも春告草の名にふさわしい咲きかたで今日も又 その花の数を増やしています。