千年の都 京都には長い歴史の中で生れ 育くまれた独自の文化がそこかしこに生きています。
そのひとつ茶道の隆盛とともに歩んできた京菓子には一つ一つに銘があります。
目と口と耳で味わうともいわれる京菓子の耳で味わうにあたるのがこの銘 菓銘ともよばれ、
物語 和歌 歴史 行事 季節 花鳥風月などから生まれるその名前はあっなるほどというやさしいものもあれば、なかなか難解な、あるいは深い教養を必要とするものもあります。しかし、お菓子そのものはそれぞれの銘にふさわしい味と色とカタチで登場してきます。
ちょうど今頃の季節のお菓子に「唐衣」があります。
ぎゅうひを四角に伸ばした上に餡玉をのせて独特のカタチに包んだもので、ぎゅうひに練り込まれた淡い紫色がちょうど今の季節のカキツバタの色をあらわし、ぎゅうひのたたみかたは花のカタチをあらわしています。
これが「唐衣」と名づけられたのはいつのことかわかりませんが、これは伊勢物語に登場する在原業平の歌から名づけられた銘なのです。
都から東国に旅をした業平はとある川辺に咲く「カキツバタ」の花を見て、都に残してきた妻への思いをカキツバタに託して詠みました。
「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」
この歌は五七五七七の各句の頭に「か・き・つ・ば・た」の字が詠み込んでつくられています。
身になじんだ唐衣のように長年つれそった妻を都に残してはるばる遠くまで旅をしてしまいましたと旅のわびしさを詠んだ歌から「唐衣」の銘を持つこの銘菓は生まれたのです。
「唐衣」は今ではあちこちのお菓子屋さんでつくられていますが、その由来が伝わっていなかった時代、このお菓子と「唐衣」の銘から業平の歌にまで思いめぐらすことができることで もてなす側と、もてなされる人の間に深いコミュニケーションが生まれる。
その大切な役割を果たしてきたのが京菓子なのです。