野菊晴という秋の季語もある通り、晩秋のおだやかな晴天の下、野原や田んぼのあぜ道などに清楚な花をつける野菊は、少し空気がひんやりしてきた今の季節にふさわしい花。
小説の題名でも知られる野菊ですが、野菊という名の菊はありません。
野菊とは自生のキク科の花の総称ですから、その種類はとても多いのです。
その中でもよく見かけるのが「ヨメナ」であり「ノコンギク」。
白から淡い紫色のさまざまな色合いの花で、深まりゆく秋を知らせてくれます。
春日野に煙立つ見ゆ娘子らし春野のうはぎ摘みて煮らしも
(読人不詳)
“うはぎ”はヨメナの古語。
「春日野の方向に上がっている煙は、乙女たちが摘んだヨメナを煮ているのでしょう」と、万葉集にも詠まれている通り、春先のやわらかいヨメナなど野菊は古くから食用にもなっていたのです。
こうした野菊の一方で、菊には栽培菊と呼ばれる仲間があります。
菊は中国では古くから食用として、また薬用として栽培されてきました。
そして花の美しさを愛でるために品種改良も早くから始まりました。
日本には奈良時代に鑑賞用、薬用として伝えられ、江戸時代には庶民の間でも菊の花を楽しむ習慣が盛んになり、品種改良が進みどんどん新種が生まれました。そして、栽培菊がいつしか菊と呼ばれるようになったのです。
菊は花の中で一年の最後に咲くこともあり、中国では古くから「延命長寿の花」として重宝され、また菊花茶は「不老長寿の茶」とも呼ばれてきました。
近年の研究によって、菊にはビタミンEをはじめとする抗酸化作用や解熱、解毒、鎮痛、消炎作用もあることがわかってきました。。
空が曇ったかと思ったら急に降り出した時雨に洗われ、道ばたの野菊の紫色があざやかになってきました。