
“紫陽花や 帷子(かたびら)時の薄浅黄(うすあさぎ)” 松尾芭蕉
薄浅黄色の紫陽花が咲く様子を、夏に着る帷子(薄手の着物)のやさしく涼しげな色合いに重ねて詠んだ一句です。梅雨のしっとりとした空気と、紫陽花の淡い美しさが感じられます。
梅雨空の下、雨粒をまとって美しく咲く紫陽花。しっとりと色づく姿は、道ばたやお寺の風景をやさしく彩り、じめじめした季節にほっとした気持ちを届けてくれます。青や紫、ピンクへと変化する花色も魅力のひとつ。雨の日こそ見たくなる、初夏を代表する花です。
━なぜ梅雨に咲くの
紫陽花は、水分を多く必要とし、湿度の高い環境を好む植物。そのため、雨の多い梅雨の時期に元気に花を咲かせます。
また、強い日差しよりも、曇り空や、やわらかな光を好むことから、日本の梅雨の気候にぴったり合っているといわれています。
━咲く場所で色が変わる
紫陽花は、土の性質によって花色が変わることで知られています。酸性の土では青色系、アルカリ性の土では赤色系になりやすいといわれ、同じ品種でも場所によって異なる表情を見せてくれます。
その変化から、「七変化」と呼ばれることもあります。
━形も色もさまざま、見比べると楽しい紫陽花
紫陽花にはさまざまな種類があり、形や色の違いも魅力です。
日本原産の紫陽花の原種「ガクアジサイ(額紫陽花)」は、中心に小さな花が集まり、その周囲を大きな装飾花が囲む姿が特徴です。

その「ガクアジサイ」から品種改良され、丸く華やかに咲く代表的な品種が「ホンアジサイ(本紫陽花)」。また、真っ白で大きな手まり状の花を咲かせる「アナベル」も人気があります。

さらに、日本原産の紫陽花がヨーロッパへ渡り、品種改良されて再び日本へ広まった「セイヨウアジサイ(西洋紫陽花)」は、青やピンク、白、しぼり模様など花色が豊富で、こんもりとボリューム感のある華やかな咲き姿が特徴です。
柏の葉に似た葉と、円錐形に細長く咲く花姿が特徴の「カシワバアジサイ」なども知られています。
それぞれ異なる表情があり、見比べながら散策するのも紫陽花の楽しみ方のひとつです。

━海を渡って人気者に
日本原産の花・紫陽花の歴史は古く、日本最古の歌集『万葉集』には、「味狭藍(あぢさゐ)」や「安治佐為(あぢさゐ)」の名で登場します。
しかし意外にも、江戸時代には現在ほど人気のある花ではなかったそうです。色が変わる様子から、「移り気」を連想する人もいたと伝えられています。
その後、日本の紫陽花がヨーロッパへ渡ると、その美しさが高く評価され、品種改良が進みました。そして、西洋で生まれた華やかな紫陽花が再び日本へ戻ってきたことで、現在のように多彩な品種が広まったといわれています。
まさに、“逆輸入”で人気が高まった花ともいえるでしょう。
━お茶にも

紫陽花の仲間には、「甘茶(あまちゃ)」と呼ばれる種類があります。この若葉を発酵・乾燥させて作られる甘茶は、砂糖を入れていなくても甘く感じられる不思議なお茶です。
お釈迦様の誕生日を祝う「花まつり」で使われることでも知られ、古くから親しまれてきました。
一方で、観賞用の紫陽花には毒性があるものもあるため、口にしないよう注意が必要です。
雨の日に美しく咲き、日本の季節を感じさせてくれる紫陽花。
色や形の違いを楽しみながら、梅雨ならではの風景を味わってみてはいかがでしょうか。



