早咲きの桜に始まって、御室桜のような遅咲きの桜まで次から次へと花をつけ桜で終わる春。
その春の中にあって、さわやかな香りと大ぶりの花をつけて目立っているのがモクレンです。
モクレンには紫色の花をつける「紫木蓮」、まっ白な花をつける「白木蓮」そして同じモクレン科で花が少し小さく北国に春を告げるコブシがあります。
モクレンの原産地は中国南部で、日本には古くから薬用として伝えられたようですが、花が蓮の花をおもわせるところから中国で木蓮の字があてられていたため、「モクレン」と呼ばれてきたのです。
薬用としては花の開く前のツボミを乾燥させたものが辛夷(しんい)と呼ばれ、生薬として鼻づまり、頭痛に効果があるとされています。
春に咲く花の中にあって、その花の大きさや独得の花のカタチで存在感を示すモクレンは、なんと地球上で最古の花と呼ばれています。恐竜が活躍していた白亜紀の地層からモクレンの木の化石が出土しているのです。はるか一億年前も昔、恐竜たちにとって春の花と言えばモクレンであり、桜の花よりも、はるかに恐竜にぴったりの花という気がしてきます。
今は観賞用の花となっていますが、モクレン科のコブシは、日本列島の山林や陽当たりのいい原野に古くから自生していました。
青みたる中に こぶしの花盛り 良寛
桜の開花が遅い越後や東北では、春を迎えるといち早く野山を白く染めて農家に種をままきをうながし、農作業のスタートを知らせるところから「田植桜」「田打桜」と呼ばれてきました。
さらに地方によっては「コブシが咲いたら味噌を仕込む」とか「サツマイモの苗を植える」など農事暦、生活暦としての役割も果たしてきたのです。
しかし年々、桜の開花が早くなるなど地球温暖化が進んでいくと、コブシが持つ季節的な役割も変わるのかもしれません。