事始めもすぎ、いよいよ京都は底冷えの季節が始まります。
盆地特有の足元からの寒さに加えて、比叡颪(ひえおろし)、北山颪(きたやまおろし)、愛宕颪(あたごおろし)と呼ばれる寒気が盆地をとりかこむ三方から吹き降ろしてきます。
唯一開けている南からさし込む明るい冬の日ざしにほっとする毎日。
しかし京都では寒さにじっと耐えるだけでなく、この寒くきびしい冬を生かし、すぐき漬け、千枚漬け、日本酒の仕込みなど、冬ならではの仕事もあり、又きびしい冬の風情をいつくしむような暮らしもあります。
伝統ある京菓子の世界でも、冬ならではのお菓子が登場してきます。
季節の移り変りを大切にするお茶の世界で、冬といえば必ずあげられるお菓子に「雪餅」があります。
餅と名がついてはいても、これはつくね芋の「きんとん」です。
つくね芋は山芋の一種ですが、京の台所とも呼ばれる丹波特産。
きめ細かくねばりが強いのが特徴です。
そして秋に収穫したつくね芋は、寒さとともに味が落ちついてくるのです。
ずんぐりとして握りこぶしのような姿とは違って、すりおろしても、「きんとん」にしても、その白さがきわだってきます。
このつくね芋を白あんと練りあわせ、馬毛を編んだ「毛通し」と呼ばれる目の細かい裏漉し器から生まれる繊細な「きんとん」を、黄味あんにつけて出来る雪餅。
電話をすると『おいでになったらつくります。少しお時間をください』のお話しの通り、できたての「きんとん」は降ったばかりの雪のように、ふうわりとした独得の美しさがいかにも冬の京菓子なのです。
鴨川のはるか上流の北山が雪雲に見えかくれする日が増えてくると、京の街にも雪が舞いはじめます。