加賀百万石の城下町金沢には、今もゆるやかな時間が流れています。
そして時の流れにも変わることなく、四季折々に織り込まれるように守られてきた暮らしのしきたりや生活習慣が折にふれ、さりげなく見えることが金沢を訪れる人にとって金沢という街をいっそう魅力的にしてきたのです。
静かな古都は、北陸新幹線の開通ですっかり手近かな観光地となりましたが、今も日々の暮らしの中にはさまざまな金沢ならではの顔を見ることができます。
そのひとつがお正月だけに売り出される迎春菓子「福徳せんべい」
せんべいと呼ばれていても、いわゆる薄いせんべいのそれではなく餅種を、めでたい福俵、打出小槌、砂金袋のカタチに焼いた中に金沢の縁起物である小さな土人形や金華糖の人形が入っています。
もなかの皮のようなあたたかい手ざわりの福徳せんべいは、ちょうど子どもの手にいっぱいのくらいの大きさ、振るとカラカラとやさしい音がして期待が高まります。
割ると中から出てくるのは金沢の縁起物、小さくかわいい土人形の加賀だるま、天神様、鯛、招き猫、ほていさんや鳩、さまざまなかたちの金華糖が入っています。
もちろんおせんべいですから皮も食べられます。
この楽しい福徳せんべいは、文化六年、金沢城二の丸御殿新造の祝賀用にと、十二代前田斉広公がつくらせたお菓子がそのルーツ。
明治に入りひろくつくられるようになり、金沢のお正月には必ず登場する人気のお菓子でしたが、今では一軒だけでつくりつづけられているのです。
少し前まではお年玉にもなったという福徳せんべいは、おめでたい小さなの土人形を集める楽しさもある、いかにも金沢らしいお正月のお菓子なのです。